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小春日記

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「しゃぼん玉」

乃南アサさんの「しゃぼん玉」を読みました。
「しゃぼん玉」_d0045063_21204024.jpg女性や老人だけを狙った通り魔や
強盗傷害を繰り返し、
自暴自棄な逃避行を続けていた
伊豆見翔人は、宮崎の山深い村で、
老婆と出会った。

翔人を彼女の孫と勘違いした
村人たちは、あれこれと世話をやき、
山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。

卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を
村人たちは優しく包み込むのだが…

文庫本カバー裏より
翔人は愛された記憶がない。
母親には「おまえはどうしようもない父親にそっくりだ」と毎日のようにののしられ、
その父親は飲んだくれては母親に暴力をふるう。

いつの間にか翔人はまともに働く事もせず
女性や老人を狙ってひったくりをして
その日をしのいで暮らしていた。

ヒッチハイクをして乗せてもらったトラックの運転手を脅して
街中まで行くつもりがうっかりと寝てしまい、
真夜中、見知らぬ山奥にほうり出される。

闇の中、自分がどこにいるのかも分からない翔人。

明け方近くに倒れているバイクと
怪我をして血を流している老婆を見つける。

バイクを盗んでそのまま逃げようと思ったのだが
老婆のペースにいつしかのせられ
翔人は老婆を背負って老婆の家まで運んでいく。

老婆はどこの誰ともわからない翔人にご飯を食べさせ、
風呂に入れ服を用意してやる。

いつでも出ていけるのに、でていけない翔人。

近所の年寄りやおばさんは
翔人を老婆の孫だと勝手に思い、なにくれとなく面倒をみてやる。

老婆の知り合いのジゲ爺が翔人に仕事を持ってきた。
山に椎茸や山菜などを取りに行き
それを祭りで売ればいい、と言う。

慣れない山での仕事に苦労しながらも頑張る翔人。

雨が降って山に入れない日、
翔人は祭りの手伝いをしている内に
自分とそう年のかわらない美知に出会う。

明るくて働き者で美人の美知。

だんだんと美知に心惹かれる翔人だが、
美知は通り魔にあったことから
都会での生活を捨て、恋人とも別れて村へ帰ってきた事を知る。

ひったくり、通り魔、強盗…
そう罪の意識もなく繰り返してきた自分の行為。
その行為によってどれほどの人が
傷つき、あるいは人生のそのものまで変わってしまったのか。

初めて気づき、呆然とする翔人。


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乃南さんの作品には、時々受けいられないものもあるんだけど
これはよかったですね。

どうしようもない翔人が
山の生活で自分では気づかないのだけどどんどん変わっていく。

人間は一人で生きてるんじゃない。
一人で人間ができあがったわけじゃない。
強くそれを感じました。

宮部みゆきさんの「誰か」の中に
主人公の母親が主人公への教えの中に
「男と女はね、くっついてると、そのうち品性まで似てくるもんなんだよ。
だから、付き合う相手はよく選ばなくちゃいけないんだ。」というのがあると
書かれています。

それは「男と女」だけではなく
一人の人間がどういう人間たちの中で生活していくか、
でもあてはまるのではないでしょうか。

やり直すのはいつからでも遅くない。
翔人にエールを贈りたいです。


この作品で作品の本筋とは全然関係ないところで
とても印象に残ってる部分があります。

雨に降られて家で手持無沙汰にしている時に
翔人が感じた雨の様子がこう表現されています。

…さあ、さあ、と雨戸に何かが好きつける音がする。
そう、ちょうどホースで水まきをしているときのような音だ。
屋根をたたく雨音も、独特の波がある感じだ。
そして、雨だれ。とん、とん。たん、たん。かん、かん。
あれは何かの空き缶にでも当たっている音だろうか。
ちん、ちん。あれはガラスの器か何かか。
ぴちょん。雫が落ちる。
ちょろちょろと、どこかからどこかへ小さな流れが出来ている。
じょぼじょぼ。ほかに比べて激しく水がぶちまけられている。…

同じように田舎の一軒家に住んでいた子どもの頃を思い出しました。
確かに雨の日にはいろんな音がしたもんです。
あの頃は雨の日だって楽しかったなぁ…
時間の流れも、今よりずっとずっとゆるやかだった気が…
by koharu1002 | 2008-04-26 22:58 | こんな本、読みました